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Sarasa Collage

         自筆本をくるむ際に使用してゐる素材は、更紗紋様を友禪の技法で絹の生地に染め上げたものです。この更紗は、すべて、70年以上前に、丸帯として手描き(一部は型染め)で制作されたもので、私の母から受け繼いだものです。作者は、京友禪の染め繪師・内藤良耕と申し無名の職人です。

  

   良耕師は、「裂盡=きれづくし」--更紗の小裂をいかにも繋ぎあはせたかのやうに描く--と呼ばれる意匠を得意としてゐたやうです。上の写真のやうに、いくつもの異なるパターンの文様を描き繋いで行くものです。さらに各小裂のパターンはひとつの帯のなかでは、原則、重複することがありません。

  

   實は、良耕師は、私の母方の祖父であります。身贔屓の誹りは承知してゐますが、藝術的價値はいざ知らず、友禪の染色技術を生かしながら、いかにも更紗らしく、異国趣味にあふれる圖柄で仕上げられてゐます。特にターコイズブルーへの執着が強く、獨逸の染料も使つてゐた由聞いてゐます。このやうな更紗への愛着を抑へきれず、同工異曲の恐れはありますが、すべての自筆本の装丁には、良耕師が制作した更紗を使用しました。

  

   私が受繼いだ更紗の丸帯は、母や伯母が愛用してゐたもので、スレが生じたり、強い染料による經年劣化のため、傷みが激しいものがありました。このうち、傷みが進んでゐない部分を切り取り、上記の裂盡をまねて、裏打ちした裂れを張り合わせ、コラージュしたものを、更紗コラージュと呼んでみました。

     

   一般的には、更紗は木綿に染められ、日常衣装として、あるいは、インテリアとして使用されてゐたと思ひます。ただ、著物や帯に用ゐる場合、やはり豪華さを競ふため、絹に染めることになりますが、耐用年數が非常に短くなるのは、やむを得ないことです。一般的には、80年ほどと言はれてゐます。

さらさ きれづくし

[更 紗]

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